博士以前

人間です

猫のゆりかご

『猫のゆりかご』(カート・ヴォネガット)を読んだ。

端的に言って傑作だと思う。軽妙で軽薄な語り口、個性的な登場人物、冒頭からつきまとう終末の予感。 全てが僕の感性のど真ん中だった。

物語は「世界が終末を迎えた日」という章から始まる。最高である。 カート・ヴォネガットは一応SF作家と言っていいと思うが、今作に出てくるSF的ギミックはただ一つ、「アイス・ナイン」と呼ばれる特殊な氷だけである。 「アイス・ナイン」は、少量が通常の水に触れただけで連鎖的に全ての水を凍らせて「アイス・ナイン」に変化させてしまう性質を持つ。 口に入れでもしたら、人体はたちまち凍りついて絶命してしまう。 序盤からしつこく存在を示唆されるこの「アイス・ナイン」は、もちろん「物語に銃が出てきたら、必ず発砲されなければならない」に従って世界を滅ぼすことになるのである。

多くを語る必要はないと思うので、気に入った文章を引用する。

「どうして人がでっち上げたゲームなんかしなけりゃならんのかね。世の中には本物がいくらでもあるじゃないか」

「真実は民衆の敵だ。真実ほど見るにたえぬものはないんだから」

「文学による慰めをうばわれたら、人はどんなふうに死ぬと思いますか?」「心臓が腐るか、神経系が萎縮するか、そのどちらかだろうね」

「こんな男には気をつけろ。何かを学ぼうとしてさんざん苦労し、学んだあとで、自分がすこしも利口になっていないと気づいた男。そういう男は、自分の愚かしさにたやすく気づいた人びとを殺したいほど憎んでいるものだ」